生命の最小単位となる細胞。
それは病気の原因究明や、治療薬の創出を行う現場で活用されています。
細胞は10µm程度ですが、それを球状に集めて直径約200µmの細胞塊(三次元的な構造)を形成すると、
例えば、がん細胞なら腫瘍を模倣でき、iPS細胞なら人体の臓器に似たミニ臓器を作製できるなど、
創薬や医療に大きな効果をもたらします。
目次
細胞魂の形成方法に課題
細胞を培養する方法は2通りあります。一つは2次元培養と呼ばれる細胞を平面に接着させて育てる方法、もう一つは3次元培養と呼ばれる細胞を浮遊させて立体的な細胞塊を育てる方法です。
3次元(浮遊)培養は、より生体に近い機能と構造を持ったミニ臓器を作成する技術としても活用されています。この方法は培養液で満たしたU字型の容器に大量の細胞を入れ、細胞同士が自然に結合することで細胞塊を形成します。しかし、細胞同士の結合がランダムに生じるため、サイズや形状が不均一になりやすく、さらに容器一つ一つに細胞を入れるため、細胞培養の作業効率も悪く細胞塊やミニ臓器の大量形成が困難でした。
そこで東ソーは細胞塊のサイズを均一に、そして大量かつ簡便に形成する培養器材の開発に着手しました。開発を進めるにあたり、従来の3次元培養法で細胞塊のサイズが均一にならない原因は、細胞塊の浮遊にあると考え、自社技術のポリマー設計技術と表面修飾技術を活用し、容器の底面に細胞を接着した状態で細胞塊を形成する方法を着想しました。


新規培養器材の開発
ポリマーコーティングでサイズや形状を均一に
まずは、接着した状態で細胞塊を形成する環境を作り出すため、細胞が接着できる領域・できない領域をポリマーコーティングによって作り分けました。接着領域をドット状に並べたプラスチック器材を作製し、そこに細胞が数十万個含まれる液を振りかけると、接着領域では接着したまま細胞が増殖し、立体的な細胞塊を形成することが分かりました。

大量かつ簡便な細胞塊の形成を実現
接着領域が200㎛サイズのドットを器材底面(直径35mm)に約5,000個配置した場合では、一度の細胞添加(振りかけ)でサイズが均一のドーム型形状の細胞塊を簡便かつ大量に形成することに成功しました。
当器材は、接着した状態で細胞塊を立体的に形成する培養方法であることから、2次元培養(接着)と3次元培養(浮遊)の間を取って、2.5次元培養器材®と命名しました。


2.5次元培養器材の活用
さまざまな細胞に適応可能
2.5次元培養器材は、がん細胞をはじめ、iPS細胞、ES細胞、生体組織から採取した臓器細胞などさまざまな種類の細胞に適用可能です。中でも、iPS細胞は全身のさまざまな臓器の細胞に変化する性質があるため、iPS細胞から細胞塊を形成させた後、神経細胞や心臓のように拍動する心筋細胞も作製可能です。
現在は、大学や企業などでユーザー評価を進めている段階で、各大学・企業から良好な結果が得られています。
治療薬開発や再生医療の現場での活用
治療薬開発の現場では、iPS細胞から人間と同等の機能を持つミニ臓器を作製できれば、薬の効能や起こりうる副作用を、より正確に予測できるようになります。さらには、病気発生のメカニズム検証のために行われているマウスやラットを用いた動物実験の削減にもつながります。そして将来的には、再生医療の産業化の課題として挙げられる大量製造に伴う手間やコスト、治療効果を発揮する均質な細胞の安定製造につながり、あらゆる病気の新規治療薬や新規治療方法を開発する現場で、幅広く人々の健康に貢献できると考えます。
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