フッ素やケイ素を含まない、撥水・撥油性ポリウレタンの開発

フッ素などに代わる材料の開発

傘の撥水加工やフライパンの撥水はっすい撥油はつゆ加工などに使われる、液体を弾く材料は撥液はつえき材料と呼ばれています。撥液材料は、実は自動車やスマートフォンなどの工業製品にも多く利用され、私たちの生活には欠かせない材料といえます。

一般的に利用されている撥液材料にはフッ素などがありますが、高価な上に環境への負荷が非常に高いものもあり、例えばフッ素を含むガスによるオゾン層破壊は、今でも深刻な環境問題の一つです。しかし、こうした環境問題があるにも関わらず、意外なことに代替材料の開発はあまり行われていませんでした。

その理由の一つが、研究の主流が代替材料の開発よりも、もっと物理的な研究になっていたから。そのヒントとなるのが「ハスの葉」。ハスの葉は、水を乗せるとよく弾き、水玉状となってコロコロと転がりますが、それは葉の表面に細かい凹凸があるから。凸凹は間に空気を含みやすいので、接触角(液体が接触する角度)が高くなり、液体を弾きやすくなるのです。

このような形状加工の研究が主流となっていたわけですが、ハスの葉も事実、表面には水に溶けにくいワックスのような成分が分泌されています。つまり、水をより弾くためには撥液性の高い成分で覆う必要があるため、代替材料の開発も欠かせないのです。

接触角とは?

撥水性は接触角で決まります。180度に近いほど撥水性は高く、0度に近づくにつれて低くなります。
この決め手となるのが“空気”。ハスの葉のように空気を多く含むと接触角は大きくなり、液体を弾きやすくなります。

ハスの葉の空気に着目

東ソーは、特定の元素(フッ素やケイ素)に頼らない代替材料を探し始めました。有望材料として挙げたのが、ポリエチレンなどの「炭化水素」。しかし炭化水素は、油に近い物性のため、水をよく弾く一方で油は弾かないことから、撥液材料として積極的に利用する例は少数でした。そこで考えたのが、空気の活用! 前述の通り、空気は液体をよく弾きます。しかもあらゆる液体をよく弾くため、水と接触する面に空気を多く含ませれば、水も油もよく弾くことが期待されます。そこでハスの葉をヒントに、炭化水素に空気を含ませる研究を進めました。

角度が大きいほど、よく弾きます

まずは炭化水素の分子構造を変えて、ハスの葉の表面のように凹凸の隙間をつくることで空気を多く含むよう、炭化水素の所々にウレタン基と呼ばれる化学構造を導入しました。ウレタン基とはポリウレタンが持つ構造で、互いを引き合う性質を持っています。

この性質によって炭化水素中のウレタン基同士が引き合い、炭化水素の分子運動を制限することに成功。これにより空気を多く含む隙間が生まれ、水や油といった液体をよく弾く材料が誕生しました。

環境負荷低減に貢献

化学品の多くは私たちの生活を豊かにしてくれる一方で、さまざまな形で環境に負担が掛かります。今回の開発品(撥液材料)や空気を利用する新たな技術は、環境負荷低減への貢献につながるものと期待しています。既にいただいたお問い合わせの中には、思いがけない意外な用途もあり、今後の発展が楽しみです。

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