NOx耐性に優れたCO2回収技術の開発

はじめに

二酸化炭素(CO2)は産業革命が始まった18世紀後半から排出量が増え始め、現在では世界的な気候変動の主要因となっている温室効果ガスとして注目されています。2020年10月には、日本政府が2050年カーボンニュートラル宣言を行い、「カーボンニュートラル」や「脱炭素」という言葉を見聞きしない日がないほど、CO2排出量の削減は非常に関心が高い社会課題の1つになっています。

CO2の排出源はさまざまありますが、大きな排出源の例えとして、火力発電所を挙げることができます。日本のエネルギー政策では、まずは徹底した省エネに加え、発電において、水力、太陽光、風力、地熱などの再生可能エネルギーの最大限の導入が計画されています。

一方、発電量が自然条件に左右されない安定かつ出力調整容易な電力源として、発電効率を高めた火力発電は、引き続き活用していくことが必要とされており、世界の火力発電を含め、ここからのCO2回収ニーズは極めて高いと言えます。

このような背景から東ソーは、火力発電所に加え、セメント工場などの燃焼排ガス中のCO2を効率的に回収する新たな技術の開発に取り組むことになりました。

従来のCO2回収技術

火力発電所やセメント工場からの燃焼排ガスに含まれているCO2の濃度は約10~20%であることが多く、このような低濃度のCO2を分離・回収する技術は世界的に注目され、新たな技術開発が活発に行われています。

CO2回収の主な技術は窒素原子を中心として構成されている化学物質「アミン」を用いています。アミンはCO2を良く吸収し、加熱や減圧によって放出(放散)することが可能です。また分子構造によって、液体から固体まで多種多様な性質を示すため、排気ガスの種類や設備の規模、回収後のCO2の用途によって適したアミンを作ることも可能です。

アミン水溶液を用いてCO2を分離・回収する手法を化学吸収法と言い、この方法を用いたCO2回収技術は商業化され、発電所や化学工場で実際に稼働しています。しかし、化学吸収法はCO2を回収するための運用(回収)コストが高いことが課題となっており、コスト削減に向けた開発が行われています。

コストが高い要因の1つとして、アミン水溶液の寿命が短いことが挙げられます。燃焼排ガスにはCO2の他に窒素酸化物(NOx)が含まれており、NOxの完全除去は非常に困難です。このNOxがアミンと反応することで、CO2の吸収・放出を阻害し、回収性能が低下するため、現在のCO2回収設備は新しいアミンを定期的に補充、もしくは入れ替える必要がありました。

NOx耐性CO2回収用アミンの開発

東ソーはアミンの開発を通じて培ってきた知見や独自技術を集約し、従来よりも効率的かつ長期間使用可能なCO2回収用アミンの開発に着手します。開発を進めるにあたり、アミンの構造に着目しましたが、世の中にはすでにさまざまな構造を有するアミンが知られており、これまでに東ソーが開発したアミン製品を含め、多くのアミンを用いて検討しましたが、目指した性能を得ることはできませんでした。

そこで当研究所の強みである「有機合成技術」と「機能評価技術」を駆使し、NOxと反応しにくいアミン、つまり「NOxに耐性を示すCO2回収用アミン」の開発に成功します。また、使用するアミンの成分を調整することにより、CO2の回収効率を向上させ、さらに回収に必要なエネルギー消費量の少ない回収剤を開発しました。

開発したNOx耐性CO2回収用アミンは幅広い燃焼排ガスからのCO2回収に適用可能であり、CO2回収用アミンの長期安定使用、回収エネルギーの低減、運用コストの低減などが期待できます。

今後もカーボンニュートラル社会の実現に向けて、東ソーではCO2を「炭素資源」として捉え、ウレタン樹脂原料であるイソシアネートや新たなアミン製品の原料として、回収したCO2を効率的に再利用する技術(カーボンリサイクル)の開発に挑戦し続けます。

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