本記事は東ソーグループ「東ソー・ファインケム株式会社」からの寄稿となります。
東ソー・ファインケムの主力製品であるNaSS(p-スチレンスルホン酸ナトリウム)は、アクリル繊維や水性アクリル塗料、水性接着剤などに用いられ、繊維の色合いを良くしたり、混ざり合わない液体を均一に分散するのを助ける(乳化剤役割)など、多彩な機能を発揮してきました。
より高いニーズに応え、用途をさらに拡大するため、NaSSの高機能化を目指してAmSS(p-スチレンスルホン酸アンモニウム)の改良に挑戦しました。
目次
研究に取り組むきっかけは?
NaSSでは応え切れない顧客ニーズに応えるため
NaSSは40年以上にわたり開発と改良を重ね、今や当社の主力製品です。一方、技術サポートを通じて「金属を含まない材料が欲しい」「有機溶剤※に溶かして使いたい」という新たなニーズが見えてきました。
NaSSはナトリウムという金属を含むため、電子材料用途ではショートやさび、腐食の原因となる可能性があります。また、主に水にしか溶けないため、例えば有機溶剤を使用するイオン交換膜の製造工程には使えず、用途が限定される一面がありました。
こうした課題を受けて改良の検討を進める中、金属を含まず有機溶剤にも可溶で、NaSSに近い物理特性を持つAmSSが、すでに当社にあることに着目しました。しかしAmSSは、長期保存による変質・変色や固化といった品質維持の問題を抱え、製造コストも高く、NaSSほど市場に広く普及するには至っていませんでした。そこでこれらの課題を克服すべく、AmSSの改良に着手しました。
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他の物質を溶かす有機化合物(アルコール、アセトン、トルエンなど)
改良のポイントは?
保存安定性と低コストの両立
AmSSの改良で重視したのは「長期保存しても品質が落ちないこと」と「市場コストに見合う製造ができること」の両立です。従来のAmSSは、保存安定性に問題がありました。そこで成分組成を見直し、品質低下の原因を特定する検討を進めました。
その結果、AmSSに含まれる水分が多いほど、保存中に品質が落ちやすいことを突き止め、他にも複数の重要因子を見いだしました。これらを踏まえて組成を最適化したことで、長期保存時も安定した品質を維持できるようになりました。
また、AmSSは製造コストの高さが採用の壁になっていました。そこで目標品質は維持しつつ、原材料や製造条件を精査し、コストと品質のバランスが取れる条件を探索していきました。これはトライ&エラーの繰り返しで、地道なプロセスデータ取得とフィードバックの積み重ねに一番時間を要しました。こうして、保存安定性とコスト抑制を両立した新しいAmSSが完成しました。
この研究を通して感じたやりがいは?
継承と発展
本開発の発端となったNaSSは、40年以上にわたり当社のロングセラーとして、技術・ノウハウ・用途開発を脈々と受け継いできた製品です。そのバトンを引き継いだ私にとって、AmSSの改良は責任を感じるものでした。AmSSは文献に合成法や用途の記載こそ少数あるものの、今まで研究が進められておらず、工業化に必要な安定性などの物性データが乏しい状況でした。
開発の先輩方の知見・指導に加え、営業・製造・開発・品質・購買など他部門の皆さんの協力により、課題の洗い出しから試作・現場検証まで一体で取り組めたことは何よりのやりがいでした。いただいた支えに報いるべく、関連事業を着実に大きくし、次の世代へ価値をつないでいきたいと強く感じています。
今回の研究結果はどう生かされるの?
AmSSの特性を生かしたさらなる用途拡大と環境負荷低減の実現
AmSSは、NaSSと同様の基本構造を持ちながら「金属フリー」「有機溶剤可溶」という特長を備えており、今回の保存安定性やコスト改善などの改良で、より広範な用途での活躍が期待できます。
特に注目しているのは「膜」用途です。例えば食品や化学工場で使われるイオン交換膜は、純水製造や脱塩・濃度調整、電気分解などに欠かせない材料ですが、従来の製造方法では強い酸性薬品を使用する必要があります。AmSSを用いた製造方法では、この酸性薬品の使用工程を省略できるため、安全かつ環境負荷低減に大きく貢献できると想定しています。
また水性塗料用途では、AmSSの使用により、金属によって起こり得る不具合(腐食、耐水性悪化など)の懸念がなく、NaSSよりも高性能な水性塗料ができると期待されています。
AmSSは私たちの目に直接触れる素材ではありませんが、暮らしの安全性や環境配慮を支える縁の下の力持ちとして、その価値を発揮していきます。
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