高耐久性無溶剤型軟質ポリウレタン樹脂の開発

目次

ウレタン樹脂には、弾性※1じん※2に優れる特性があり、自動車部材やコーティング材※3など幅広い分野で使用されています。コーティングをはじめとする、合成皮革や接着剤用途では、ウレタン樹脂は有機溶剤に溶けた状態となっており、有機溶剤を加熱して揮発させることで、樹脂被膜を形成できるのが特長です。

しかし、有機溶剤の多くは人体に有害なため、大気中に放出されないよう回収する必要があり、この時に多くのエネルギーを使用(CO2を排出)します。そこで、東ソーは有機溶剤を使用しない(以下、無溶剤型)コーティング材料の開発に挑戦しました。

  • 物体に力を加えると変形し、力を取り除くと元の形に戻る性質

  • 材料の強度や粘り強さ

  • 基布にウレタン樹脂を塗工することで形成される被膜

無溶剤化に向けた取り組みは?

2液硬化システムの採用

従来品(溶剤型)は、当社が有機溶剤中でウレタン樹脂を合成したものを販売しているため、当社ユーザーは塗工・乾燥させるだけで樹脂被膜を形成できます。今回の開発では、無溶剤化するために「2液硬化システム」を採用しました。2液硬化システムとは、ポリオールとイソシアネートの2つの成分を混合し加熱することで、ウレタン化反応による樹脂被膜を形成させるシステムです。また、ウレタン化反応は130~150℃で数十秒~数分程度と、従来品よりも短い時間でユーザーの要求特性を満足できる設計にしなければいけないため、ポリオールにはポリカーボネートを、イソシアネートにはMDIを選択しました。

溶剤型と同等以上の目標特性達成に向けた取り組みは?

長鎖ポリカーボネートポリオールの採用

無溶剤型は、溶剤型と比較してポリウレタン樹脂被膜の物性、特に柔軟性と目標特性の両立が課題で、長年市場に浸透していない状況にあります。そこで、その課題を解決するために、開発品には「長鎖ポリカーボネートポリオール(長鎖PCP)」を使用しました。この長鎖PCPは、従来は1分子中に2個しかないOH基を3個まで高めた当社独自の原料(架橋剤)です。

このようなOH基を3個持つ架橋剤はこれまでもありましたが、例えば、汎用的に使用される分子量が小さいものの場合、耐低温性や柔軟性が低下し、分子量が同等や大きいものでは耐熱性や耐湿熱性が低下するなど、目標特性と両立させることは困難でした。

しかし、この当社独自の架橋剤は、耐熱性・耐湿熱性の高いカーボネート骨格と適度な分子量を併せ持ちます。この架橋剤を用いてポリマー骨格中の網目状構造を適切に制御することで、耐低温性・柔軟性を保持したまま、耐熱性と耐湿熱性の向上を達成しました。

  • 2つ以上の分子を化学的に結合させる成分

目標特性

耐低温性
-30~-10℃で屈曲させても割れない
耐熱性
120℃に400時間静置しても劣化しない
耐湿熱性
80℃、湿度95%に400時間静置しても劣化しない

今回の研究結果は どう生かされるの?

環境負荷の低減と快適性能の 向上に貢献

開発品を使用した合成皮革

本開発品は、人体に有害性のある有機溶剤を使用せず、CO2排出量も削減できる環境にやさしい製品です。

また、溶剤型と同等の耐久性を有しつつも、柔軟性に富む点がポイントです。この柔軟性は、天然皮革に劣らない良質な質感・触感を付与するため、特に自動車の内装用途として車室環境・快適性の向上を期待しています。

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