本記事は東ソーグループ「株式会社東ソー分析センター」からの寄稿となります。
プラスチックなどに代表される高分子材料は、複数の原料を配合し、耐熱性や耐薬品性といったさまざまな機能を付与し、高性能化が図られています。
目的に応じた機能へ改良するためには、それぞれの原料がどのような構造で形成されているのかを分析することが重要です。
そこで、東ソー分析センターは高分子材料の構造解析に関する新たな手法に挑戦しました。
目次
今回の研究は、どうして始まったの?
微細構造と組成分析を同時に行える新手法を生み出すため
数種類の原料を混ぜて作られる高分子材料は、構造が複雑化・微細化しているため、より詳しい構造観察のニーズが高まっています。材料の構造を観察するには、大きく二つの方法があります。一つは、原子間力顕微鏡などを使って、高解像度で微細な構造を見る方法。もう一つは「赤外分光法」という、物質の組成を分析する方法です。しかし、それぞれ向き不向きがあります(表1参照)。
そこで、微細構造を観察する能力と物質の組成を特定できる能力の両方を兼ね備えた手法として「AFM-IR※」に着目し、高分子材料の構造解析を進めました。
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Atomic Force Microscope - Infrared Spectroscopy
(原子間力顕微鏡と赤外分光法を組み合わせた手法)
AFM-IRでの解析で苦労した点は?
材料の平滑な面を作るための前処理
解析成果の約8割は、前処理の出来によって決まると言われています。AFM-IRで正確な解析結果を得るためには、高分子材料を薄く切り、表面をできるだけ平らにする前処理が重要です。単一の材料であれば平らな面を作ることは比較的簡単ですが、複数の材料が混ざっていたり、形状が複雑だったりすると、平らな面を作ることが難しい場合があります。平滑な面がうまく作れないと解析結果に多くのノイズが入り、本来の構造や成分が見えなくなってしまいます。
そこで、材料を切る時の温度や厚みを最適に調整したり、特注の器具に挟んで切削したり、ダイヤモンドの刃を持つナイフやイオンビームを使用して切削方法を工夫したりと、さまざまなノウハウを積み重ねました。
AFM-IRで、何ができるようになった?
材料の微細な構造や特徴の高い解像度での可視化
ポリオールAとポリオールBという2種類のポリオールで合成されたポリウレタンの事例を紹介します。原子間力顕微鏡(AFM)を使ってポリオールを観察すると、黄色とオレンジ色の濃淡がついており、各々のポリオールが分散していると確認できますが、どちらのポリオールであるかまでの組成分析はできず、詳細な解析には至りません(図1)。
しかし、AFM-IRを使うと、海島構造※を形成していることが可視化できるようになり、測定波数からポリオールAが島領域、ポリオールBが海領域に存在することが明らかになりました。さらに拡大すると、島領域の中に海領域の成分が入り込み、逆に海領域の中にも島領域の成分が細かく混ざり合っている様子が観察されました(図2)。
このように、AFM-IRを使うと材料の微細な構造を可視化し組成分析まで行え、目的に応じた性質への改良に役立てることができます。
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材料の中で異なる成分が「海」と「島」のように分布している状態。
今回の研究結果はどう生かされるの?
分析技術の進展で研究開発を支援
AFM-IRは「もっと強度を出したい」「もっと耐熱性を出したい」などの高性能化を目指す際に、材料の構造を可視化できるものです。構造の可視化は、添加物がどのように働いているのかを予測でき、製品の改良につながります。
東ソー分析センターでは、高い前処理の技術力も含め正確なAFM-IR 分析を可能にしています。これからも、分析技術の進展という形で、社会に貢献していきます。
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