東ソー株式会社 CSR

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トップメッセージ

「成長」と「脱炭素」の
両立を目指して

代表取締役社長
社長執行役員
桒田 守

経営の考え方

「企業理念」を見つめ直しグループ一丸となって実践していく

2022年3月に社長のバトンを引き継いでから1年半が経過しました。2021年度は売上高・利益とも過去最高を更新し、中期経営計画の数値目標もすべて達成しました。この好業績を受けてのバトンタッチであり、財務基盤も各事業の収益構造も良好な状態で引き継げたことは非常に幸運だったと思います。

ただし、社長就任以降の事業環境は、まさに激変の連続でした。ロシアのウクライナ侵攻を契機とした原燃料価格の高騰に加え、中国ではゼロコロナ政策による経済成長の鈍化、欧米では金融引き締めによる景気後退など懸念事項が次々と発生しました。そうした事業環境の激変に加え、社長就任直前の2022年1月に発表したカーボンニュートラルへの挑戦という大きなテーマもあります。

当社の企業理念である「私たちの東ソーは、化学の革新を通して、幸せを実現し、社会に貢献する。」は、30年以上前の1986年に制定されました。その記録を紐解いてみると、東洋曹達工業と呼ばれていた当時の社長の「会社を大きく変えたい」「ワールドワイドな会社にしたい」という思いが込められていました。

そこから現在に至るまで、この企業理念を大切にし、歩みを進めることで、当時思い描いた会社に少しでも近づいてきたのではないかと考えます。一方で、社会は常に変化し、新たなハードルが現れます。これを解決しない限り、当社グループに生き残る道はなく、グループ一丸となって取り組み、乗り越え、次に進んでいく必要があります。今こそ、企業理念に込められた思いを改めて見つめ直し、化学の革新によって世界を幸せにできる企業を目指すべきだと考えています。

中長期的な成長戦略

スペシャリティ事業の底上げに向け各製品の設備投資を積極化

当社グループでは、底堅い需要のあるコモディティ事業で基盤となるキャッシュ・フローと利益を確保しつつ、成長性の高いスペシャリティ事業へ継続的な開発投資を行い、新たな成長ドライバーを生み出していく、というハイブリッド経営を基本としてきました。収益基盤をより強化するためスペシャリティ事業で1,000億円超の収益基盤を構築することを目指します。一方、コモディティ事業で提供する苛性ソーダや塩ビ樹脂など社会の持続的な発展に不可欠なエッセンシャルプロダクトは、生産プロセスで大量のエネルギーを必要とすることから、脱炭素対応に注力します。この「成長」と「脱炭素」をいかに両立させるかが、グループ全体の成長戦略における重要な課題だと考えています。

こうした考えから2022年8月に発表した「中期経営計画(2022~2024年度)」では、従来のハイブリッド経営を継承しつつもこれをより深化させ、機能商品を核とするスペシャリティ事業の底上げにこれまで以上に注力していく、という基本方針を打ち出しました。成長投資は前中期経営計画の25%増となる2,000億円を計画していますが、このうち800億円はスペシャリティ事業の各製品に重点配分していく方針です。財務基盤の強化は完了し、中長期の目標に向かって投資できる体力があるので、これは有効に使っていきたいと考えています。

現在のスペシャリティ事業には成長ドライバーとして期待される製品が数多くあります。例えば、バイオ医薬品原料の精製に使われる分離精製剤「トヨパール®」、歯科材料のほか装飾用途、粉砕用途でも需要が拡大している「ジルコニア」、半導体製造装置用素材として需要の拡大が見込まれる「石英ガラス」などです。また、プラスチック難燃剤に使われる「臭素」、各種工業製品のほか医療用手袋などにも用途が拡大中の「クロロプレンゴム」などにも底堅い需要があります。一方、排ガス浄化触媒用の「ハイシリカゼオライト」はEV(電気自動車)化の進展で現状は需要の伸びが一段落していますが、EV化の難しい大型トラックなどに適した新製品(高耐熱性グレード)を上市することでまだまだ成長が期待できます。また、今年上市予定のパワー半導体製造に使われる「窒化ガリウム(GaN)スパッタリングターゲット」も市場の反応が非常に良いことから今後の展開を楽しみにしています。

こうした積極的な成長投資によって、現中期経営計画の最終2024年度には「売上高1兆1,600億円、営業利益1,500億円、営業利益率10%以上、ROE10%以上」を達成し、営業利益1,500億円の50%(750億円)以上はスペシャリティ製品で占める利益構造にしたいと考えています。さらに、その先の2030年には、スペシャリティ事業で稼ぎ出す営業利益を1,000億円超まで引き上げていくことが目標です。

連結業績/目標

2021年度実績2022年度実績2024年度目標
売上高9,186億円10,644億円11,600億円
営業利益1,440億円746億円1,500億円
営業利益率15.7%7.0%10%以上
ROE16.3%7.0%10%以上

2022年度の振り返りと2023年度展望

事業環境が激変するなか一定の利益を確保できたことを評価

冒頭でも述べましたが、中期経営計画初年度の2022年度(2023年3月期)は一言で言えば激変の年であり、原燃料価格の上昇、景気減速による需要減をはじめ石油化学業界にはまさに逆風が吹き荒れた1年でした。特に当社グループの経営環境に大きな影響を及ぼしたのが石炭価格の高騰です。当社は自家発電の燃料として石炭を使用しますが、2022年度はこの石炭の価格が前年比で2倍以上、前々年比では実に約4倍にまで高騰し、事業運営に大きな影響を与えました。特に影響が大きかったのが製造プロセスでのエネルギー使用量が多いクロル・アルカリセクターです。原燃料コストが一気に上昇したことに加えて、中国のゼロコロナ政策継続を背景にアジア域内でコモディティ製品の市況が下落した影響も大きく、クロル・アルカリセクターの営業利益は赤字となりました。その一方で機能商品事業については、先に紹介したような高付加価値の製品がいずれも順調に販売を伸ばし、セグメント全体の収益もほぼ計画通りに推移しました。

これらの結果、2022年度の連結売上高は、コスト上昇分の一部を価格に転嫁できたことから1兆644億円(対前年比15.9%増)の増収とはなったものの、営業利益については過去最高を記録した前年度(1,440億円)から急落し746億円(同48.2%減)、親会社株主に帰属する当期純利益も503億円(同53.4%減)といずれも大幅な減益となりました。クロル・アルカリをはじめとしたコモディティ事業の収益悪化をスペシャリティ事業の製品の伸びが支え切れなかった結果とも言えますが、当期の事業環境を考えると、以前の当社ならば全体収益が赤字に陥っても不思議ではない状況だったと私は捉えています。機能商品を中心とするスペシャリティ領域の収益力が高まったことで、厳しい状況下でも一定の利益を確保できたのは企業として「稼ぐカ」がしっかりついてきた証であり、その意味ではよく健闘したと評価しています。

中期経営計画2年目となる2023年度(2024年3月期)も、依然として先行き不透明な状況が続いています。原燃料の価格が想定したレベルで落ち着けばクロル・アルカリ事業も黒字復帰できる見込みですが、油断はせず、石炭の一部に割安な低品位炭を採用するなど引き続き損益改善を図っていく方針です。

製品の需要については、コモディティ事業・スペシャリティ事業とも大きなマイナス影響は現れておらず、通常通りの生産を行うとともに、スペシャリティ事業を中心とした設備投資も計画通りに実施していく方針です。2023年度の連結業績は売上1兆800億円、営業利益が950億円の増収・増益を計画しています。

目指すべき収益構造(営業利益)

目指すべき収益構造(営業利益)

  • スペシャリティ:「機能商品セクター」+「機能性ポリマー製品(石油化学)」+「機能性ウレタン製品(クロル・アルカリ)」

脱炭素への道筋

カーボンニュートラルの実現に向け「GHG排出量削減投資」を推進

中長期視点での最大の経営課題は「成長」と「脱炭素」を両立させていくことです。2050年カーボンニュートラル実現に向けた中間目標として「2030年度までにグループのGHG排出量を2018年度比30%削減する」と発表しており、この達成に向けて各事業の成長投資や研究開発投資とは別に、2030年度までに1,200億円の投資を決めています。

現中期経営計画の3年間では、このうちの600億円をGHG排出量削減投資として実施していく計画です。喫緊の課題は石炭燃焼によって大量のCO₂を排出している自家発電設備のグリーン化です。なかでも単独企業・単一事業所としては国内最大級の出力を有する南陽事業所の石炭火力発電所における燃料転換が最大のテーマとなります。

その第一歩として2023年度は南陽事業所にある自家発電設備のボイラー6基のうち老朽化が進んだ1基を、バイオマスを主燃料とする新しい発電設備に置き換えることを決め、すでに建設工事を開始しています。中期経営計画3年間で投じる約600億円の投資のうちの約3分の2にあたる400億円がこの新発電設備であり、CO₂削減効果も最大となります。新発電設備の完成は2026年4月を予定しており、2026年度からCO₂排出削減効果が顕在化してくる見込みです。

また、南陽事業所のほかの石炭ボイラーについても燃料転換を早期に進める考えで、すでにバイオマスの混焼を開始しています。現状では混焼できるバイオマスの割合が数パーセントにとどまっていますが、バイオマスを予め炭化させることで混焼率を3割近くまで引き上げるなど新技術の開発を進めています。同時に将来的に不足が予想されるバイオマス燃料の調達ルート確保にも動き出しています。さらに、自家発電の燃料転換ではバイオマス以外にも選択肢が考えられます。2022年に「周南コンビナートアンモニアの供給拠点整備基本検討事業」が資源エネルギー庁の補助対象事業に採択されており、この事業を通して国内初のアンモニアサプライチェーン構築にも挑戦していきます。

この他、石油化学セクターの主力拠点である四日市事業所では、ナフサクラッカーで副生するオフガスを燃料に有効利用するガスタービン発電設備の増設を検討中です。将来、廃プラスチックの代替資源化なども視野に入れ、四日市事業所をケミカルリサイクル、マテリアルリサイクルの拠点に進化させていく考えです。

一方、CO₂排出量削減と並行して、CO₂の分離回収・有効利用でも、研究開発を進めてきました。そのひとつが自社開発したアミン溶液を用いてCO₂を回収し、イソシアネート原料として活用する新技術です。実証試験設備で検証を行い、自社設計によるCO₂回収プロセスを確立し、現在、既存のイソシアネート原料生産設備内にCO₂回収および原料化設備を建設中です。なお、その後のCO₂回収・原料使用については、自社内だけで行うよりも、確立したCO₂回収技術を同業他社含め産業界に広く提供していくことで社会に貢献できると考えています。化学製品の原料としての活用が実現できれば、大きな環境貢献につながると期待しています。

研究開発の強化

積極的な「種まき」と同時に育成のスピードアップを図る

研究開発力の強化も最重要テーマのひとつです。製造業のなかでも化学品の開発は特に長い年月を要するものであり、現在の高収益事業となっているジルコニアや分離精製剤、石英ガラス、ハイシリカゼオライトといった機能商品は、どれも1980年代半ばに事業多角化戦略で研究に着手し、20~30年をかけて実を結んだ成果です。その後しばらくは業績の悪化で研究開発費を絞った時期がありましたが、2010年頃から再び種まきを開始し、未来を支える新事業を創出すべく研究開発へ経営資源を投入してきました。それらの種の中からようやく実を結び、収穫期を迎えるものが近年徐々に現れ始めています。例えば「窒化ガリウム(GaN)スパッタリングターゲット」もそのひとつです。

今後もR&D部門からいかにコンスタントに新しい製品・事業を創出していけるかが、当社グループの持続的成長の鍵を握ると考えています。市場環境や研究の進捗を見て中身を入れ替えながら全研究開発拠点合計で年間30テーマ程度の研究を常時進めており、そのなかから年間10テーマ程度は事業化フェーズに移行させたいと考えています。

新事業創出に向けた体制強化として、ここ数年は全国各地の研究開発拠点の拡充を進めてきました。事業環境の変化がますます激しくなると予想される今後は、できるだけ多くの「種」をまくと同時に育成のスピード、すなわち事業化までの時間をできる限り短縮することも重要になります。そうした考えから2023年4月には神奈川の東京研究センターにMI(マテリアルズ・インフォマティクス)の機能・人材を集約した「MIセンター」を立ち上げました。合わせてMIに必要な実データの収集や合成、物性評価に関しても最新鋭の装置を導入して自動化を進めており、開発効率の飛躍的な向上によって開発のスピードアップを図っていきます。

ESGへの取り組み

すべての基本であるコンプライアンスの徹底と人権課題への取り組みを進める

企業価値の持続的な向上においては、非財務的な資本への取り組みも重要であると認識しています。社長就任時からお伝えしているように、持続可能な企業であるための基本的な条件は、すべてのステークホルダーから信頼される会社であることだと私は考えています。安全生産かつ、安定供給が確実な製品を提供することはもとより、コンプライアンスをより一層徹底することで、お客さまや取引先、行政などの信頼を得ることができると考えています。

また、昨今では人権に関する課題に対し、グローバルな対応が求められています。グループとしてバリューチェーン上の人権に取り組む考え方を示すために「東ソーグループ人権方針」を策定しました。

安全への取り組み

化学メーカーの社会的責任として安全・安定操業の確保に注力

化学メーカーの経営者として私が特に重視するのは「安全・安定操業」です。2011年に発生した南陽事業所の爆発事故では、事故後に組織された安全改革委員会の事務局となり、自ら各地の工場に赴いて現場のオペレーターや設備管理者と対話を重ねてきました。私自身、もともと製造畑の出身であり、現場が抱える課題や働き方に関する率直な意見に耳を傾けながら「安全はすべてに優先する」を基本方針に、設備の健全化や人の配置・業務内容の見直しを進めてきました。

最近では安全面でのデジタル技術の活用、DX化の推進を図っています。例えば製造部門では、安全対策としてIoT技術を導入して装置の故障予知・寿命予知に取り組んでいるほか、DCS(分散制御システム)も刷新し、すべての工場で大画面スクリーンを計器室に導入して重要データを俯瞰することで班長が適切な判断・指示を出せる環境を整備しています。

このように予防保全に資する健全化工事への投資を継続的に実施してきた結果、ここ数年はプロセス起因での異常現象や事故は着実に減少しています。ただし、安全活動においては「ここまでやれば完了」ということはなく、今後もより高いレベルの安全と安定操業の確保に向けて地道な活動を続けていく方針です。

人材育成

自律型人材を基本とした成長できるやりがいのある職場づくり

言うまでもなく企業の根幹を支える最大の経営資源は「人材」です。冒頭で企業理念について述べましたが、「化学の革新」を実際に行っていくのは従業員です。革新という言葉が指すものは研究開発だけではありません。例えば、製造では日々の改善を積み重ねて、安全に安定して製品をつくり続けることが革新です。営業では、お客さまのニーズに耳を傾け、適切なものを適切な時にお客さまに届けるために試行錯誤することも革新です。こうした考えは常に従業員に共有し、一人ひとりが革新の担い手であることを自覚してほしいと伝えています。

当社では、2年前に定めた人材育成の基本方針によって、求める人材像として「いかなる環境下でも自ら仕事や役割を創り、周りを巻き込んで結果を出す『自律型人材』を育てていく」ことを定めました。これは長年培われてきた当社の企業風土を明文化したものにほかなりません。

企業理念と同時期の1986年に制定した東ソースピリットでは「挑戦する意欲」「冷たい状況認識」「熱い対応」「持続する意志」「協力と感謝」という5つの言葉が掲げられていますが、これもまた自主性・主体性を大切にする企業風土に根ざしたものであると思います。多様化・複雑化し、絶えず変化し続ける今の時代において、この東ソースピリットに示された価値観を、自分たちの指針として大切にしなければと改めて感じています。

また、従業員のモチベーションをどのように向上させ、維持していくかということも重要であると考えています。取り組みとして、働きがいのある職場環境づくりはもとより、従業員主体型のキャリア形成を進めていきます。海外で活躍できる人材育成もそのひとつとなります。当社の海外売上比率は5割を超え、グローバルに事業を展開する企業となっており、海外で活躍するための教育を受けながら準備を進めることができる仕組みづくりを始めています。また、事務系従業員だけでなく、技術系従業員もさまざまな経験を積むために、海外に行くチャンスを増やしたいと考えています。技術系の部門では、ひとつの部署に長く在籍することが多く、これを変えていくのはなかなか難しいですが、進めていきたいと思っています。

ガバナンス

議論と対話を重ねて

企業は業績を上げ利益を得ることが第一ですが、配当や株価など株主・投資家の利益も考えた経営が求められています。このため、経営陣との議論と対話を重ねています。社外取締役とは、取締役会での議論をより深めるために事前に情報共有をして、それについての意見交換を行っています。また、取締役会メンバーとは、取締役会以外でフリーに議論できる場を年に数回設け、東ソー全体の有り様やポートフォリオをどういった方向性にしていくかを議論し、意見を今後の取り組みに反映させることにしています。

ステークホルダーへのメッセージ

東ソースピリットを胸にさらなる挑戦を続けていく

2022年度を振り返ると激動の1年でしたが、これはステークホルダーの皆さまにとっても同様だったと思います。サプライヤーの方々には情勢が厳しいなかで原材料の供給をしていただくとともに、お客さまには価格調整を了承のうえ、製品を購入していただきました。一方、従業員も、コロナ禍にあっても製造から販売までの体制を維持し、事業活動にあたってくれました。このようにステークホルダーの皆さまに支えられた1年だったと思っています。

当社グループの前には「成長」と「脱炭素」の両立という乗り越えるべき大きな壁があり、事業環境の見通しも引き続き不透明です。しかし、すべての物事にはネガティブな側面と同時に、ポジティブで明るい側面を見いだせると私は考えています。従業員に対しても「想定・準備は悲観的に、行動は楽観的に」と普段から呼びかけています。例えば、脱炭素という目標があることによって、さまざまな新技術の開発が進みます。それは将来の当社グループの大きな競争力につながっていくはずです。

これからも私たちは協力と感謝の気持ちを忘れず、状況を冷静に見つめ、同時に熱い気持ちを持って、グループ一丸となって困難な状況に挑戦し続けていきます。そしてお客さまや取引先の皆さま、株主・投資家の皆さま、地域の人々など、すべてのステークホルダーにとって信頼される企業を目指していきます。

皆さまには引き続き当社グループへの温かいご理解、ご支援をお願い申し上げます。

代表取締役社長 社長執行役員
桒田 守