半導体は現代社会の基盤ですが、現在の主流材料であるシリコンには性能向上の限界が近づいており、シリコンの限界を超える次世代材料として 窒化ガリウム(GaN) が注目を集めています。 GaNは従来デバイスと同等の機能を維持しつつ高性能・高効率を実現できる特性を有し、電力変換の損失を大幅に低減することで機器の設計自由度や省エネ性、携帯性を向上させます。こうした特性は急速充電器の普及にも表れており、GaNパワー半導体の採用により充電時間短縮とデバイス小型化が進んでいます。これらの要因がGaN普及を後押ししており、GaNは今後の半導体市場をけん引する成長エンジンになり得ます。東ソーはこうした特性に注目し、GaNの研究開発に取り組んでいます。本コラムではGaNスパッタリングターゲットの開発を題材に背景知識と製品情報を紹介し、次回以降で更に東ソーの独自技術に踏み込んでご紹介します。
目次
GaN特性・適用領域
半導体は現代生活の基盤ですが、主流のシリコンは性能向上に限界が見え始めています。地球温暖化対策の観点から省エネがますます重要となる中、シリコンより優れた特性を持つ次世代材料としてGaNが注目を集めています。GaNは大きなバンドギャップと高い電子移動度を活かし、デバイスの高性能化と小型化を同時に実現できると期待されています。
GaNの代表的な応用として、まずパワー半導体が挙げられます。電力の変換や高頻度のON/OFFを担い、全体の電力損失を抑制します。実用例としてスマートフォンやPC向けの急速充電器があり、GaNを用いることで充電時間の短縮と携帯性の向上が実現しています。現状は低耐圧領域(約300V前後)が中心ですが、今後は600V~1200Vといった高耐圧領域への適用拡大が期待され、電気自動車の充電器やデータセンターのAI機器などでの利用が見込まれます。
次に、高周波デバイスとしての応用も重要です。GaNは高周波での安定動作が求められる5Gおよびポスト5Gを含む次世代通信システムに不可欠となる可能性が高く、IoTを含む幅広い分野での通信品質向上と市場への影響が大きいと予想されます。
このようにGaNは、省エネと性能向上を両立させる実用的な解決策として、エネルギー効率の改善と通信・デバイス設計の革新を推進する鍵となっています。東ソーはこうした特性に注目し、GaNの研究開発に取り組んでいます。
GaN成膜法の比較
GaN薄膜は現在、nm〜µmオーダーの極薄構造として、パワーデバイスや高周波デバイスに一般的に用いられています。図の例では、基板上にGaNやAlNの薄膜を積層し、最上部に電極を配置して電圧・電流を取り出す構造となっており、これらはシリコン基板上への薄膜堆積で作製されます。
薄膜成膜の主流はMOCVD法で、トリメチルガリウムとアンモニアを反応させてGaNを成膜します。高結晶性の薄膜を基板上に均一に得られる一方、1000℃超の高温が必要であり、原料ガスの大量供給や有毒ガスの使用といったデメリットがあります。そこで、東ソーはスパッタリング法に着目しました。スパッタリングではターゲット材料に電圧を加えたイオンを衝突させて原料を弾き出し、基板上に膜を堆積させます。この方法は低温成膜が可能で、非毒性ガスだけで成膜できるため、成膜効率と生産性の向上が期待できます。
GaNターゲットの方式と東ソーの工夫
スパッタ法による窒化ガリウム成膜には、メタル方式とセラミックス方式の2種類があります。メタル方式は酸化などが起こりにくく高純度ですが、低融点金属であるためスパッタ装置に特殊な冷却機構が必要です。一方、セラミックス方式はそのような冷却機構を要しないため取り扱いが容易で、弊社はこの方式を採用して窒化ガリウム焼結体ターゲットの作製に着手しました。しかし、GaNのスパッタリングターゲットとして高品質なものはこれまで開発されていませんでした。その理由は、GaNの焼結が難しい点にあります。セラミックスの焼結は粒子同士のネッキングや物質拡散・粒成長により緻密化しますが、GaNは物質拡散温度と分解温度が近いため焼結が進みにくいのです。東ソーはさまざまな焼結手法を検討し、大きく密度を向上させることが可能なプロセスの構築に成功しました。
東ソーのGaNターゲット
東ソーは独自の粉末合成・焼結技術で高品質な窒化ガリウムターゲットを作製でき、丸形ターゲットは最大12インチ、角形ターゲットにも対応しています。開発ターゲットを用いたスパッタ成膜と、MOCVD法での膜の結晶性を比較しました。上図にはサファイア基板上へ窒化ガリウムを直接製膜した場合の、ターゲット中の酸素含有量に対する(0002)面のロッキングカーブ半値幅を示していますが、これらの膜はMOCVD法と同等以上の結晶性を示します。
次回へ続く
今回は東ソーの独自性が際立つGaNターゲットをご紹介しましたが、東ソーはGaNだけでなくさまざまなターゲット材も取り扱っています。ご関心のある材料があれば、以下の製品例をご参照の上、どうぞお気軽にお問合せください。 なお、東ソーのGaNターゲットに関する詳細な情報は、過去にご報告した「東ソー研究技術報告」でもご確認いただけます。 次回の研究開発コラムでは、GaNスパッタのバッファ層による結晶性向上技術をテーマに東ソーの独自技術を詳しくご紹介しますので、ぜひご期待ください。