東ソーが開発した高密度・高純度GaNスパッタリングターゲットにより、安定したGaN成膜が可能であることを前回のコラムでご紹介しました。今回のコラムでは高結晶性GaN膜をバッファ層として用いてMOCVD成長GaNの結晶性を高める技術、成膜条件の制御によって圧縮応力を付与しGaN on Siデバイス課題に対応する技術、さらにAr/N2ガス比の最適化によりGaN膜を平坦化する技術を紹介します。スパッタリング法を活用することで、GaNデバイス製造のコスト削減やスループット向上、省エネ社会への貢献が期待されます。
目次
高結晶性GaNスパッタ膜のバッファ層への活用
前回の【研究開発コラム】窒化ガリウム(GaN)ターゲットの開発でご紹介した、高密度かつ高純度なGaNスパッタリングターゲットの開発によりMOCVD法と比較し低コストかつ安全なスパッタリング法でGaNの安定成膜が可能となりました。今回の【研究開発コラム】スパッタリング法によるGaN成膜技術では、GaNターゲットを用いた成膜技術のメリットを3つの項目に分けてご紹介します。
一つ目は、高結晶性GaNスパッタ膜をバッファ層として用いる技術です。前回のコラムではターゲット中の酸素量を低減することで、高結晶性のスパッタGaN膜の成膜が可能となることをご紹介しました。この特徴を活かし、高結晶性スパッタGaN層をバッファ層として用いMOCVD法でその上にGaNを成長させることで成長後のGaNの結晶性を高めることができます。図に示すのは、c面サファイア基板上にスパッタリング法およびMOCVD法でバッファ層を成長させ、その後MOCVD法でGaNを成長させた膜のロッキングカーブ半値幅の結果です。既存のMOCVD-AlNバッファを用いた場合よりも、スパッタGaN/AlNバッファを用いた場合の方が(0002)方向・(1012)方向ともに半値幅が減少していることが分かります。これは、基板とGaNの格子不整合を緩和する効果が、スパッタバッファ層でより顕著に現れ、欠陥が低減されるとともに結晶配向性が向上したことを示しています。MOCVD-GaN層の結晶性は、デバイス全体の性能に大きく影響するため、この技術を用いることでGaNデバイス性能が大きく向上する可能性があります。
スパッタリング条件によるGaN膜の応力制御
二つ目は、スパッタリング成膜による応力制御技術です。スパッタリング法はターゲット材料にイオンを衝突させて原子を飛び出させ、基板上に薄膜を形成する技術です。この過程で、プラズマ中の高エネルギー粒子が膜を構成する原子と衝突し、歪みを生むため膜には内部応力が蓄積されます。この応力はイオンのエネルギーやガス圧、基板温度、膜厚などのプロセスパラメータによって大きく左右されます。例えば、ガス圧を高くするとスパッタされた原子のエネルギーが低下し、膜の密度や内部応力が変化します。これらのパラメータを調整することで、膜の応力状態を目的に応じて制御することが可能です。左図に示すのは、各ガス圧で成膜されたスパッタGaN膜にかかる圧縮応力値です。ガス圧の低下に従い、より大きな圧縮応力が付与されていることが分かります。また、右図は各膜厚で成膜されたスパッタGaN膜にかかる圧縮応力値です。スパッタGaN膜の膜厚が増加するに伴って、圧縮応力が増加していることが分かります。当社では、その他にも成膜パワーやターゲット-基板間距離、成膜温度などを変化させることで、圧縮応力の付与量を制御できることを確認しており、これはMOCVD法にはない特異的な技術です。
東ソーは、この応力制御技術がGaN on Siデバイスの抱える諸課題への解決策になり得ると考えています。一般的に、Si基板を用いたGaNデバイスの成長プロセスにおいて、GaNはSi基板よりも熱膨張係数が大きいため、冷却時に大きな引張応力がかかり、基板の反りやクラックが発生してしまい、デバイス性能を低下させる要因となります。そこで現在用いられているのが、超格子構造(SLs)と呼ばれるバッファ層の利用です。SLsでは、GaNやAlN、組成制御されたAlxGa1-xNなどをMOCVD法により交互に積層させることで圧縮応力を蓄積させ、引張応力を相殺できる一方、複雑な構造のため、プロセスタイムが長いことによるスループットの低下や、原料コストの増大、歩留まりの低下などが量産上の課題として挙げられています。これに対し、パラメータ制御によってより効率的に圧縮応力が付与されたスパッタ膜をバッファ層として適用することで、全体の応力を相殺できれば、バッファ層をより薄く単純化できる可能性がありGaN on Siデバイス製造プロセスのスループット向上やコスト削減につながると考えています。
Ar/N2ガス比の最適化による平坦化
三つ目は、成膜ガス比率の最適化によるスパッタGaNの平坦化技術です。基板上に薄膜を成長させる際、大きく分けて2つの成長モードが存在します。層状に平坦な膜が成長する二次元成長モードと、島状に凹凸が大きい膜が成長する三次元成長モードです。二次元成長膜は界面が平滑で欠陥密度が低く電流の散乱やリークが少ないため、LEDやトランジスタなどのGaNデバイスで高効率・高信頼性を得るうえで望ましい膜構造です。一般的にGaNのスパッタ成膜ではArとN2の2種類のガスを用いますが、これらの流量比が膜の成長モードに大きく影響することが分かっています。
上図に示すのは、ガス圧10PaにおいてN2流量比率を0~10%の範囲で変化させた際の、スパッタ膜の構造を観察した結果です。ここでは、MOCVD-GaNテンプレート基板上にスパッタGaN膜を成長させています。AFM像より、N2流量比が小さくなるにつれ膜が平坦化していることが分かります。また、断面SEM像からも膜構造が層状に成長したことが確認できます。これは、N2比の低下に伴い、膜の成長モードが三次元成長から二次元成長へと切り替わったことを示しています。
更に左図に示すのは各窒素流量比で成膜されたGaNスパッタ膜の(1011)面ロッキングカーブです。N2流量比が小さいほどロッキングカーブの裾が狭くなっており、結晶性(配向性)が向上していることが分かります。これは、二次元成長した膜において転位密度が低減されていることを表しています。このように最適なAr/N2ガス比を見つけることは、高品質なスパッタGaN膜の成長に非常に重要であることが分かります。また、二次元成長に最適なガス比は、その他の成膜条件によっても大きく変動することが分かっています。例えば右図に示すのは、各ガス圧での二次元成長と三次元成長の切り替わるガス比を示したデータです。10Paの高ガス圧領域では二次元成長に必要なN2ガス比率は2%未満であるのに対し、3Paでは35~40%の範囲となっており、二次元成長する範囲が大きく変動していることが分かります。ガス圧以外のパラメータによっても、これらの範囲は容易に変動するため、成膜時には一度ガス比を大きく変えて成膜し、成膜物の構造を確認することが重要です。
スパッタGaN技術が拓くGaNデバイス製造の可能性
ここまでご紹介したように、スパッタリング法によるGaNの成膜では用途に応じて適切な条件や技術を適用することが重要です。そして、最適化されたGaNスパッタ技術を適用し、GaNデバイスの成長プロセスの多くをスパッタリング法に置き換えることができれば大幅なコスト削減やスループットの向上につながります。そして、当社の技術を活かしながらGaNデバイスが世の中へ普及していくことで、省エネ社会への貢献が出来るものと考えています。GaNターゲット製品、GaNターゲットを使用したスパッタ膜の成膜技術など、気になることがございましたら下記お問い合わせよりお気軽にご相談ください。
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